ヴェネト州からの6番目の造り手はヴィッラ ベッリーニです!
オーナーのチェチーリア トゥルッキ
彼女の一家はヴェローナの街にホテルを経営していて、彼女自身は建築家兼ガーデンプランナーとして仕事をしていましたが、ヴェローナ郊外のヴァルポリチェッラのゾーン、サン ピエートロ イン カリアーノにあった、1700年代に建てられた屋敷と6ヘクタールの土地からなる、ヴィッラ ベッリーニを1980年代半ばに購入します。
ヴィッラ ベッリーニの敷地は、四方を石壁に囲まれ、森、庭園、1600年代に仕立てられた乾式の石壁で作られた緩やかな段々畑、泉などがある荘園のような場所で、このような屋敷はヴェネト州の方言で、Brolo(ブローロ)と呼ばれています。
当初は、建物を修復&改装してホテルにしようと考えていたのですが、荘園内にもともとあったブドウ畑、そしてワイン造りに魅せられていき、1990年からワイナリーとしての生産を開始します。当初2ヘクタール程度だったブドウ畑も、現在では4ヘクタールに増え、徐々に生産本数も増えています。
ワイナリーを始めた当初は、アマローネ、ヴァルポリチェッラ、レチョート デッラ ヴァルポリチェッラを生産していましたが、現在ではアマローネを生産していません。ガイドブックなどでの評価も高かったにもかかわらず、アマローネという世界的にネームヴァリューのあるワインを生産をやめてしまったのです。ヴァルポリチェッラのゾーンで、アマローネを造らない造り手は多分彼女だけではないでしょうか。
なぜか?
彼女自身が、中途半端に残糖分のある、高アルコール度数のワインを毎日飲みたいと思わなかったからだそうです。ワインはワインとして単独で楽しむものではなく、食事と共に楽しむべきもので、できることなら毎日でも飲めるものであって欲しいという彼女の思いがアマローネの生産をやめるきっかけとなりました。
2003年ヴィンテージから、彼女のヴァルポリチェッラにはターゾという名前が付き、毎年違う色、詩の書かれたラベルになっています。
750mlのボトル、左から03,04,05,06,07,08
2006年の、アンジョリーノが主催するサロン、ヴィッラ ファヴォリータで飲んだ2003年のターゾが、初めて経験する彼女のワインだったのですが、その時には木のニュアンスが強すぎたのと、決して安くはない値段が気になって、スルーしてしまいました(加えてこの年に、現在のヴィナイオータのワインに対する理念みたいなものを象徴する造り手、パーネヴィーノとの衝撃の出会いがあったので・・・)。ですが次の年、2004年を試した時に、ヴァルポリチェッラというワインでは体験することのなかった質の、ヴィンテージごとの大きな差を感じてびっくりしてしまいました。
ヴァルポリチェッラというワインの生産工程の中で他のワインでは採用されることのない手法の一つにリパッソというものがあります。アマローネないしレチョートを生産する際には、収穫後3-4ヶ月陰干しし、糖分が凝縮したブドウを使用します。アルコール醗酵がある程度進み、色素が抽出できた段階で圧搾するわけですが、残ったブドウの皮(ヴィナッチャ)にもまだ若干のアルコール&糖分があり、これを余すことなく利用するために、通常の赤ワインと同じように生産され、熟成中のヴァルポリチェッラにヴィナッチャを入れ、再醗酵を促し、よりリッチな味わいにするというのがリパッソというテクニックになります。
このリパッソを施したワインは、リパッソというテクニックの痕跡があまりにも前面に出てしまい、ヴィンテージごとの個性をワインの中に見出すのが非常に困難になり、それ自体僕がワインに求めるものとはかけ離れてしまうため、僕がこのゾーンのワインを敬遠する理由となっていました。
そんな僕の驚きや意見をチェチーリアにぶつけてみると、彼女も同じように考えていて、だからリパッソはしないんだという答えが!
そしてターゾという名前なのですが、ヴェネトの方言で”無言”を指し、彼女自身こんな文章を書いています。
理想のワインを探しているうちに、(自分にとっての)真実に出会った。
観察し、耳を傾け、感じること、そしてタイミングを見極めることを学び、ブドウ樹や季節について見識を深めること・・・(自然な)ワイン造りのための秘訣であるこれらのことは同時に、人生の秘訣でもある。
真実は(ブドウの)根っこ、時間、そして我々の中にあり、ラベルの中にあるわけではなく、ターゾの静寂のみが、そのオリジンであるブドウ、畑、気候、土壌について語りかけてくれる。
2003と2004のワインの差に感動し、そして彼女の話を聞いて色々腑に落ちてしまったので、是非にも!と取引をお願いしたのが2007年になります。
アマローネを造らないという世間的には??な選択に対しての彼女の答えが、ターゾ、ワインであり、沈黙であり・・・格好良くないですか?
ターゾは、今現在、収穫してそのまま醸造したものと、1ヶ月ほど陰干ししたブドウを醸造したものを別々に熟成させ、ボトリング前に毎年比率を変えつつブレンドを行っています。
1ヶ月程度ですので、アマローネ的なニュアンスは決して目立ちはしないのですが、将来的にはそれさえもやめようと考えているそうです。
無茶苦茶低い、アルベレッロ仕立ての畑。この仕立ての存在を知った時、形といい、景観的な意味でもよりナチュラルな仕立てだと感じ、これで畑を作ろうと思ったそうです。高密植にし、樹勢も1株あたりの収量も押さえたこの畑がある程度の樹齢に達した時には、もともと凝縮したブドウが獲れるはずで陰干しする必要がなくなる・・・。
静かな、だけど断固たる決意、信念の持ち主、チェチーリア、彼女自身もターゾの精神を具現化した存在で、しつこくなっちゃいますが、やはりワインは人だということになっちゃうような気が・・・。
ターゾ以外には、ウーヴァ パッサ(干しブドウ)という名前のパッシート(レチョート)を生産しています。ターゾ用には1ヶ月のところ、4ヶ月ほど陰干ししたブドウから造るワインで、完璧な状態のブドウが収穫できた年にしか生産されません。
お出しするワイン:
Valpolicella Taso 2008
Valpolicella Taso 2007
Valpolicella Taso 2006
Valpolicella Taso 2005
Uva Passa 2006